Compartir

第27話 ロディマスは兄を怖がっている

Autor: なつめ
last update Fecha de publicación: 2026-08-31 10:33:00

 ロディマスを探すことに、リディエラは少し迷った。先王妃アリエネの葬儀や老犬ルーディの夜について聞いたばかりで、さらに王太子の内側を弟から引き出せば、結局は黒ミッションのために弱点を集めることになる。今朝決めたのは、泣く理由を作るのではなく、泣いても困らないと思える状況を探すことだった。そのために弟の秘密を利用するのなら、選択肢を閉じた意味がない。リディエラは黒い帳簿へ、「兄の傷ではなく、弟自身が兄との関係をどう感じているかだけを聞く」と一行書き、学院北側の小さな射場へ向かった。

 午後の射場には乾いた草の匂いと弦が空気を切る短い音が漂っていた。ロディマスは王族用の練習区画で一人、標的へ矢を射ていたが、放たれた一本は中心からわずかに右へ外れた。白金の髪の少年は「外した」と低く呟き、次の矢を取ろうとして入口のリディエラに気づくと、明るい青の瞳を露骨に細めた。前に資料室で話した時より警戒が強く、弓を下ろしながらも自分から近づこうとはしない。

「今度は何を聞きに来た」

「少しだけ、お話しできればと思って」

「兄上のことなら嫌だ。母上のことも、ルーディのことも話しただろ。あれ以上、兄上の弱み
Continúa leyendo este libro gratis
Escanea el código para descargar la App
Capítulo bloqueado

Último capítulo

  • 死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます   第27話 ロディマスは兄を怖がっている

     ロディマスを探すことに、リディエラは少し迷った。先王妃アリエネの葬儀や老犬ルーディの夜について聞いたばかりで、さらに王太子の内側を弟から引き出せば、結局は黒ミッションのために弱点を集めることになる。今朝決めたのは、泣く理由を作るのではなく、泣いても困らないと思える状況を探すことだった。そのために弟の秘密を利用するのなら、選択肢を閉じた意味がない。リディエラは黒い帳簿へ、「兄の傷ではなく、弟自身が兄との関係をどう感じているかだけを聞く」と一行書き、学院北側の小さな射場へ向かった。 午後の射場には乾いた草の匂いと弦が空気を切る短い音が漂っていた。ロディマスは王族用の練習区画で一人、標的へ矢を射ていたが、放たれた一本は中心からわずかに右へ外れた。白金の髪の少年は「外した」と低く呟き、次の矢を取ろうとして入口のリディエラに気づくと、明るい青の瞳を露骨に細めた。前に資料室で話した時より警戒が強く、弓を下ろしながらも自分から近づこうとはしない。「今度は何を聞きに来た」「少しだけ、お話しできればと思って」「兄上のことなら嫌だ。母上のことも、ルーディのことも話しただろ。あれ以上、兄上の弱みを教えるつもりはない」 返事は取りつく島もなかったが、それは当然の拒絶だった。ロディマスの立場から見れば、婚約者でありながら兄の過去を調べ回っているリディエラが、何かに使うため弱点を探しているように見えてもおかしくない。黒ミッションを抱えている以上、「絶対に利用しない」と将来まで保証することにもためらいがあったが、少なくとも今日ここへ来た目的だけは違う。リディエラは標的と少年の間を避け、射線から十分離れた場所に立った。「殿下を傷つける材料にするつもりはありません」 ロディマスの眉が動いた。「……兄上を?」「はい。今日は、あなたがお兄様といる時にどう感じているのかを聞きたいのです」「僕の気持ちを知って、どうする」「今は何もしません。ただ、殿下が誰かを守ろうとする時、守られる側にはどう見えるのかを知りたいと思いました。話したくなければ、ここで終わります」 風が射場を抜け、積まれた藁束を乾いた音で擦った。ロディマスはすぐには答えず、矢筒へ戻した矢羽を指先で整えながら、何度かリディエラの顔を確かめる。やがて彼は近くの長椅子へ腰を下ろし、弓を隣に置いた。話すと決めたというより、ど

  • 死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます   第26話 王子を傷つければ簡単なのに

     目を覚ました時、窓の外はまだ朝になりきっていなかった。薄い雲の向こうから青白い光が差し、寝台の天蓋と床の境目を曖昧にしている。昨夜の雨は止んでいたが、窓硝子には水滴が残り、暖炉の灰からは湿った薪の匂いが漂っていた。リディエラは上掛けの中で一度深く息を吸い、視界の隅に残っている黒い表示へ目を向けた。〈黒ミッション残り時間:48時間00分00秒〉 数字が切り替わり、〈47時間59分59秒〉へ変わった。その下に見慣れない白い枠が開き、黒い画面の中央へ細い銀線が走る。これまでにはなかった項目が、命令ではなく助言を装うように静かに浮かんだ。〈推奨攻略〉〈先王妃アリエネ関連イベントを使用してください〉 リディエラの指先から、眠気が消えた。昨夜、ティルヴァンと向かい合って食事をしたばかりだった。香りの強い根菜を最後に食べる理由を聞き、雨の日を好む理由を聞いた。先王妃についてどこまで知ったのかと問われた時にも、彼が今その話を聞きたいかを確かめ、本人が「今日はいい」と答えたところで止めた。それを遠回りだとでも言いたげに、黒い画面がさらに広がった。〈推奨選択肢〉〈A:母親の死を責める〉〈B:無実の侍従を処刑した罪を指摘する〉〈C:母親の遺品を破壊する〉〈D:自身が理解者であると告げる〉 最初の3つを読んだ時には、嫌悪より先に身体が強ばった。だがDへ視線が移ったところで、リディエラはかえって長く画面を見つめた。一見すると、4つの中で最も穏やかだった。責めない。壊さない。罪を突きつけない。ただ、自分だけはあなたを理解していると伝えるだけだ。 孤独だったのですね。泣けなかったのですね。母上を失って苦しかったのでしょう。他の者には分からなくても、私は分かります――そんな言葉を柔らかな声で並べればいい。暴力も毒も使わず、相手を抱き締めるような形で心の奥へ入っていける。 セフィランの顔が浮かんだ。怒ってしまったのですね。妹を羨ましいと思ったのでしょう。愛されたいだけなのではありませんか。本人より先に感情へ名前をつけ、救いたいという善意で出口を狭めていく。Dは、それと何が違うのだろう。 自分だけが理解していると宣言するには、まずティルヴァンが何を感じているかをこちらで決めなければならない。母を失って悲しい。告発した侍従のことで罪悪感がある。誰にも弱さを見せられず孤独だ

  • 死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます   第25話 婚約者を知ろうとしなかった女

     王宮の小食堂には、雨の匂いが薄く入り込んでいた。 夕方から降り始めた雨が、高い硝子窓を細かな指先で叩いている。外はすでに暗く、庭園に並ぶ魔術灯だけが濡れた石畳へ青白い光を落としていた。 長い食卓の中央には、白い花と銀の燭台。 料理は2人分。 王も王妃もいない。 今夜は、王太子とその婚約者が今後の学院行事について確認するための、形式的な夕食会だった。 少なくとも表向きは。 リディエラはティルヴァンの向かいに座っていた。 濃紺の正装。 白金の髪。 背筋はいつも通り真っ直ぐで、ナイフを持つ角度まで乱れがない。 ティルヴァンは食事中もほとんど音を立てなかった。 給仕が皿を下げる時には僅かに身体を引き、次の皿が置かれる位置を見ずとも把握している。 それを見ながら、リディエラは不意に気づいた。 自分は、この人が食事をするところを何度見ただろう。 婚約したのは幼い頃だ。 王宮の晩餐。 公爵家での食事。 学院の茶会。 隣へ座った記憶はいくつもある。 それなのに。 彼が何を先に食べるか。 何を残すか。 熱い物と冷たい物のどちらを好むのか。 食事中に話す方なのか、静かな方なのか。 そういうことを、過去のリディエラはほとんど覚えていなかった。 覚えているのは別のことばかりだ。 王太子妃らしい姿勢。 失敗しない食器の扱い。 隣国の令嬢より豪華なドレス。 母エネファが認める髪型。 ティルヴァンが婚約を解消しないために、どう振る舞うべきか。 ずっと隣にいたはずなのに、彼を見ていなかった。 見ていたのは、彼の隣に立つ自分だった。「食欲がない?」 ティルヴァンの声で、リディエラは顔を上げた。「いえ」 皿を見る。 白身魚と香草。 半分ほどしか食べていない。「少し考え事をしていました」「毒のこと?」「今日は違います」「では、魔術灯?」「それも違います」 ティルヴァンの視線が一度、リディエラの顔を確かめるように動く。「珍しいね」「何がでしょう」「君が考えていることを、こちらから当てなくても答えるのが」 責める調子ではなかった。 ただ、過去との違いを記録するような言葉。「隠す必要のないことでしたので」「隠す必要があることは、まだ多い?」 黒ミッション。 システム。 好感度。 先王妃の記録。

  • 死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます   第24話 先王妃の死

     旧王妃庭園へ続く渡り廊下の手前で、リディエラは足を止めた。 視界の隅では、黒い表示が時刻を刻み続けている。〈推奨接触時刻まで:08分42秒〉〈対象:ティルヴァン・エルグレード〉〈対象は旧王妃庭園へ移動中です〉 あと8分。 このまま進めば、会える。 システムがわざわざ時間と場所を指定したということは、そこにティルヴァンを泣かせるための何かがあるのだろう。 亡き母の庭園。 十一歳で失った王妃アリエネ。 母の死後も涙を見せなかった少年。 老犬の亡骸の前で、「僕が悲しめば、皆が困る」 と口にしたという記憶。 そこまで材料が揃えば、何をすればよいかは想像できる。 母親の話をする。 葬儀の日を尋ねる。 泣かなかった理由を問う。 昔の傷を丁寧に撫で、閉じ込めてきたものが溢れるまで待つ。 優しく行えば、暴力には見えない。 けれど目的は同じだ。 涙を得るために、相手の最も痛い場所へ触れる。 ネレスの言葉が蘇る。 ――一番触れられたくない傷を探して、そこを抉ればいい。 リディエラは旧王妃庭園へ続く扉を見た。 白い石造りの廊下。 先には王宮警備兵が2人立っている。 通ろうと思えば通れる。 王太子の正式な婚約者であるリディエラには、その資格がある。「お嬢様?」 後ろからマルタの声がした。「参られないのですか」「……今日はやめます」 システム表示が明滅する。〈推奨接触時刻まで:07分56秒〉 命令ではない。 推奨。 ならば従わなくても、今すぐ失敗にはならない。「別の場所へ行きます」「どちらへ?」「王宮記録局です」 マルタの目が僅かに見開かれた。「先王妃陛下について、もう少し確認します」「殿下へ直接お尋ねにならないのですか」「本人へ尋ねる前に、私が何も知らなさすぎます」 自分が知りたいからと、本人にすべて説明させる必要はない。 公開されている記録から確認できるところまでは、自分で調べる。 そのうえで、なお本人へ尋ねる必要があるのか考える。 リディエラは踵を返した。 背後で推奨時刻だけが減り続けている。 王宮記録局は、王城西翼の古い棟にあった。 白亜の華やかな中央宮殿とは違い、灰色の石壁に細い窓が並ぶ実務的な建物だ。扉の上に王冠と羽根筆を組み合わせた紋章が掲げられている。 入口で身分を確認

  • 死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます   第23話 王子の涙を売る商人

     資料棟を出た時、時計塔は15時12分を指していた。 旧王妃庭園へ向かうよう示された時刻は16時10分。 視界の隅には、別の時間が減り続けている。〈黒ミッション残り時間:66時間49分37秒〉 リディエラは回廊の途中で足を止めた。 ティルヴァンの母アリエネが亡くなったこと。葬儀でも泣かなかったこと。母の老犬が死んだ夜、「僕が悲しめば、皆が困る」と口にしたこと。 知ってしまった。 だが、その知識を使うつもりはない。 旧王妃庭園で亡き母の話を故意に持ち出し、老犬の記憶へ触れる。泣いてもよいと優しく言いながら、涙が出るまで傷を撫で続ける。 そんなことをすれば、黒い表示は喜ぶかもしれない。 リディエラは嫌だった。 ただ、嫌だという感情だけで残り時間は止まらない。 もう一つ確かめたいことがある。 どこまでが無効で、どこからが「本人の感情」と判定されるのか。 身体を傷つけることは無効。薬も、魔術による強制も、演技も無効。 では、偽りの知らせによって本気で悲しませた涙はどうなる。 他人から誘導された感情でも、本人が本当に悲しめば有効なのか。 そんな境界を尋ねる相手として、一人だけ思い浮かんだ。 最も相談したくない男でもあった。 ネレス・カルヴァディン。 好感度11。未だ排除域。 毒を盛り、殺す理由を教えず、価値がある間だけ生かすと言った青年。 同時に、人間がどこで傷つくかをよく知っている。「マルタ」 少し後ろを歩いていた侍女が顔を上げる。「はい」「東棟へ寄ります」 マルタの表情が露骨に曇った。「ネレス様ですか」「おそらく」「またお茶を?」「飲みません」 即答すると、彼女は少しだけ安心したようだった。「人の多い場所で話します。前と同じように、少し離れていてください。ただし、私が杯に触れたら来てください」「今回は杯に触れないとおっしゃったばかりでは」「念のためです」「分かりました」 以前より、彼女は質問するようになった。 それが嫌ではなかった。 東棟の談話回廊は、午後の講義を終えた生徒たちで賑わっていた。 香辛料を練り込んだ焼き菓子の匂い。異国語の会話。窓のない回廊を風が通り、吊るされた布飾りを鳴らしている。 ネレスは、以前と同じ奥の席にいた。 今日は3人の男子生徒を相手に、札を使った遊戯をしている

  • 死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます   第22話 涙を見せない王子

     旧王妃庭園へ向かうまで、まだ数時間あった。 黒いミッションは、視界の隅で時間を削り続けている。〈残り時間:69時間14分08秒〉 リディエラは表示を閉じた。 焦れば、傷つく言葉を探し、過去を暴き、泣くまで追い詰める方へ傾く。それをしないと決めたのなら、まず知るべきは「どうすれば泣くか」ではなく、「なぜ泣かないのか」だった。 王立アルセリア学院の中央資料棟には、王家に関する公刊記録も保存されている。 王太子の生い立ちそのものは秘密ではない。 むしろ、王位を継ぐ者の歩みとして積極的に残されていた。 リディエラは司書へ申請し、宮廷年報、王都新聞の縮刷版、学院行事記録を閲覧机へ運んでもらった。 高い窓から射し込む朝の光。 遠くで頁をめくる乾いた音。 黒い革表紙の宮廷年報を開く。 最初に出てきたのは、六歳のティルヴァンだった。 公式晩餐へ初めて出席した日の記録。〈王太子殿下は幼少ながら終始ご立派な態度を保たれ、諸侯の挨拶へ一人ずつお応えになった〉 添えられた記録画には、小さな白金の髪の少年がいる。 大人用の椅子へ座れば足が床へ届かないほど幼い。 それでも背筋を真っ直ぐ伸ばし、膝の上へ両手を置き、正面を見ている。 笑っていない。 怯えてもいない。 子どもらしい退屈さすら見えない。 次は八歳。 外国使節団を迎えた時の記録だった。〈殿下は使節の母国語による挨拶を披露され、両国友好の象徴として大きな称賛を受けられた〉 写真のティルヴァンは、やはり同じ顔をしている。 唇の角度まで整っているように見えた。 十歳。 王太子として初めて民衆の前で短い演説を行った。〈未来の王としての責任をすでに深く理解しておられる〉 どの記録も褒めている。 泣かなかった。 取り乱さなかった。 怯えなかった。 失敗しなかった。 そのすべてが、美徳として同じ方向へ積まれていた。 リディエラは紙の余白へ簡単に書き留める。 六歳――公式晩餐。 八歳――外国使節。 十歳――初演説。 すべて「落ち着いていた」「立派だった」「年齢以上」と評価。 子どもらしい感情が記録されていない。 羽根筆を止める。 記録にないことと、存在しなかったことは違う。それでも、周囲が何を価値あるものとして残したかは分かる。 感情を抑えられる王子。 乱れない

Más capítulos
Explora y lee buenas novelas gratis
Acceso gratuito a una gran cantidad de buenas novelas en la app GoodNovel. Descarga los libros que te gusten y léelos donde y cuando quieras.
Lee libros gratis en la app
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP
DMCA.com Protection Status